『主の晩餐の奥義 -ロバート・ブルースの説教-』 トーマス F. トーランス 編、原田浩司 訳(一麦出版社、2025年)
書評 中本 純 仙台東六番丁教会牧師
~~~~ロバートが取り次いだ五篇の説教は今から約450年前に語られたものとは思えないほどの新しさに満ちており、それらはみずみずしさと感動に満ちたメッセージであります。「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く、面白いことを真面目に、真面目なことを愉快に、そして愉快なことはあくまで愉快に」作家の井上ひさしが述べた言葉にありますように、改革派神学の本懐とも呼べる新しさと喜びを私たちはこの一冊に見いだすことができます。~~~~
『主の晩餐の奥義 -ロバート・ブルースの説教-』
トーマス F. トーランス 編、原田浩司 訳(一麦出版社、2025年)
過ぐる2022年にノックス没後450年を迎え、早くも3年が経ちました今年、『<スコットランド信仰告白>による信仰入門』(一麦出版社)を手掛けられた原田浩司先生翻訳による『主の晩餐の奥義-ロバート・ブルースの説教-』が上梓されました。タイトルからもお分かり頂けますように、この書は16世紀のスコットランドの牧師、ロバート・ブルースの五篇の説教が中心に収められた書物となっています。本書の基となっていますブルースの説教集は1590年にスコットランドで初版が刊行された後、1614年にロンドンで『主の晩餐の奥義』というタイトルが付せられ刊行されました。その後、約340年の時を経て、スコットランド教会牧師ならびにエディンバラ大学の教授であられたトーマス・F. トーランス教授によって編纂・刊行されたのが本書であります。ロバート・ブルースという人物について、恥ずかしながら私はこの書を手にするまで詳しく存じ上げませんでしたが、スコットランドの宗教改革者ジョン・ノックスの後任として1587年に33歳の若さでセント・ジャイルズ教会の牧師に就任した人物です。従いまして、ノックスの後継者としてスコットランド宗教改革運動において、その後の安定と持続性をもたらした人物であることを教会史家のロバート・ウドローは本書の中で紹介しています。
トーランス教授が序文の中で「昔のスコットランド人の語りの活気と力強さを公正に判断していただき、また、正統に評価していただきたい、とわたしは切望します」と述べておられるように、五篇の説教の随所において信仰者を奮い立たせる力強いメッセージが語られています。それらは、聖餐の奥義に働かれる聖霊の御力に焦点が当てられているが故の「霊的な説教」であるからではないかと考えられます。しかしながら、そのことが所謂「感情的・情緒的に偏った説教」とは異なり、盤石な教理の土台の上に据えられた説教であることは、本書を手に取って頂けると一目瞭然であります。具体的に述べますと、「目で見える御言葉と目では見えない御言葉」、「洗礼と聖餐のサクラメント」、「ラテン教父ならびにギリシャ教父に見られるユーカリスティア(感謝)としての聖餐」、「パンとぶどう酒という‘しるし’(物素)に働きかけるキリストの霊とその効力」、「霊的なる命」等、数え上げる暇が無いほどに実に多くの教理的テーマが説教の中で紹介されています。このように、極めて教理的な内容が理路整然と分かり易く、しかも霊的なる情熱を帯びて語られているのです。
16世紀、ヨーロッパにおいてルター、ツヴィングリ、カルヴァンら宗教改革者たちによって展開された聖餐論は、共通してローマ教会の聖餐理解である「実体変化説(transub-stantiation)」への否定を念頭に置いたものであり、そのことはブルースも本書において明確に否定していることを確認することができます。そのため、改革者たちは「いま天におられるキリストが何によって、どのような仕方で教会の中に臨在されるのか」ということを聖餐に働きかける聖霊によって説き明かそうと努めました。そのことから、聖餐の奥義は聖霊論をもって語られるものであり、ノックスの後にスコットランドの宗教改革を担ったブルースもまた、聖霊論的な聖餐理解を説教の中で説き明かしています。ブルースは本書の中で「霊的な現臨」という言葉を度々用いており、それは受餐者の魂にキリストの霊が現臨するものであることを説いています。それは、「天と地というものが、あたかも太陽と地球ほどの決定的な距離感を有していたとしても、地球に暮らす私たちが太陽の光熱を感得することを可能とされているように、私たちの魂もまたキリストの霊である聖霊を確実に感得するようにされている」ということを伝えているのです。こうしたところで聖霊を感得するようにされている魂の働きについて、私たちは必然的にカルヴァンが『キリスト教綱要』の中で語っている聖餐論との詳細な比較といったものを求められるようにされています。またそうした部分につきましては、この書を手にした読者に与えられている一つの楽しみであるかと思われます。
ロバートが取り次いだ五篇の説教は今から約450年前に語られたものとは思えないほどの新しさに満ちており、それらはみずみずしさと感動に満ちたメッセージであります。「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く、面白いことを真面目に、真面目なことを愉快に、そして愉快なことはあくまで愉快に」作家の井上ひさしが述べた言葉にありますように、改革派神学の本懐とも呼べる新しさと喜びを私たちはこの一冊に見いだすことができます。
(仙台東六番丁教会牧師)